ぼくがかんがえたさいきょうの優木せつ菜個人回
【注意】この記事には以下の要素が含まれます
- 小説形態の記事で虹ヶ咲の二次創作です
- 内容は長めです
- 独自解釈多め
- 解釈違い、ガバガバシナリオ注意
- 時系列は細かく考えていません
- スクスタともアニメとも繋がっておりません、ただし設定はアニメに準拠します
目次
title:「誰よりも味方でいてほしいあなたへ」
#第1話
chapter.1
ある日の放課後、いつものように部室で皆さんが楽しそうに話していました。
「もうすぐ文化祭。みんなはやっぱりそこでライブしたいよね!」
「もちろんです侑先輩!かわいいかすみんのパフォーマンスで、文化祭に来てくれた人を虜にしちゃいますよ〜。」
侑さんとかすみさんの言う通り、もうすぐ文化祭が始まります。それの準備で生徒会の仕事も大変忙しくなっています。そして文化祭というからには、同好会の皆さんもライブがしたいみたいです。
「先のスクールアイドルフェスティバルで、私達同好会の知名度も上がったと思います。だから文化祭のライブも、校内の皆さんだけでなく、色々な場所から私達を見にきてくださる方が大勢いると思います。
そんな人達にも喜んでもらえるようなパフォーマンスを是非やりましょう!」
「そうだねせつ菜ちゃん。」
「スクールアイドルフェスティバル以上に、本気の私達を見せてあげましょう。」
歩夢さんも果林さんも、気合は十分みたいです。
そこで愛さん達が、自分の身内も来るだろうという内容の話をし出しました。
「そういうことなら、お姉ちゃんやおばあちゃんも誘ってみたい!」
「彼方ちゃんも、遥ちゃんやお母さんを呼びたいなぁ〜。」
続けてエマさんと璃奈さんもご家族の話をしました。
「私も、スイスにいる家族にも見てもらいたいな。」
「私の親は忙しいから、ライブを動画に撮っておきたい。」
家族、ですか…。
私の家庭では親が、特にお母さんが厳しくて、アニメなどの趣味を一切禁止されています。だからスクールアイドルも、親に内密でやっています。皆さんはちゃんとご家族の理解を得られた上で活動している中で私だけ親にスクールアイドルのことを隠しているのは少し寂しいですが、仕方のないことだと思っています。それでも、なんとか見つからずにこうして活動を続けられているので、これからもそうするつもりです。
「どうしたのせっつー、考え事?」
気がついたら少し考え事をしていたらしく、愛さんが興味津々に聞いてきてしまいました。
「いえ、なんでもありません。それより、早く生徒会に文化祭のライブの申請をしましょう。」
「生徒会長のせつ菜先輩がここにいるじゃないですか〜。パパッと申請しちゃいましょうよ。」
「かすみさん、ちゃんとした手続きを踏まないとダメだよ。」
冗談を言うかすみさんをしずくさんが宥めるのもいつもの流れです。
「それに、会場も決めないといけませんからね。もしそこも決まれば、副会長と一緒に生徒会室で待ってますので、お願いします。」
ひとまず時間を午後4時、場所を講堂に定め、申請書の作成に入りました。早く文化祭で歌いたいです。
chapter.2
家に帰るときは、優木せつ菜から中川菜々に戻ります。文化祭の準備のことで生徒会も忙しくなり、帰りも遅くなってしまいます。
「ただいま。」
「おかえり菜々、夕飯できてるわよ。」
いつものようにお母さんが出迎えてくれました。荷物を置いて制服から着替え後、すぐに食卓に向かいます。その前に手洗いとうがいも欠かしません。
今日の夕飯はハンバーグでした。お母さんは料理が上手で何を作っても美味しいんです。だから学校帰りの夕飯の時間も、私にとっては楽しみの一つです。何より、日々の学校生活で疲れた私をお母さんが暖かく迎えてくれることが嬉しくて、そんなお母さんのことも本当は大好きなんです。
「今日も文化祭の準備?」
「はい、色々な部の出し物の申請を通したり、予算の管理とかで、かなり大変です。」
「そう、頑張っているのね。
去年も行ったけど、虹ヶ咲は専攻もたくさんあるから、文化祭が楽しいわね。」
「はい、特に焼き菓子同好会の作ったクッキーや、ライフデザイン科のスイーツとかは絶品です。またお母さんの分も買ってきますね。
それと、流しそうめん同好会も出し物をするみたいなので、よかったらそっちにも足を運んでみてください。」
「菜々は学校が好きなのね。」
「はい、だから文化祭も楽しみです。」
私は虹ヶ咲学園が好き、だから生徒会長の仕事にもやりがいを持ってますし、そんな学校の文化祭をお母さんかみにきてくれることはとても嬉しいです。だけど、スクールアイドル同好会のことは言えない。言ったらお母さんをがっかりさせそうですし、怒られそうですから。
「文化祭の後はテストもあるし、来年は受験なんだから頑張りなさいね。」
「はい、わかってます。」
「文化祭の方も、生徒会長なんだから、それに相応しく責任を持って進行しないとね。」
「はい。」
これもよくあるやり取りです。お母さんに言われずとも、私自身もそう思って励んでいるのですが、やはりお母さんからすれば心配みたいですね。
私自身はお母さんとはとても仲良くできていると思っています。だからこそ、昔から漫画やアニメなどの私の好きなことを認めてくれないことが仕方ないですが残念に思います。
小さい頃にアニメを見ていたら『教育に悪いから』といきなりテレビの電源を消されたことや、誕生日プレゼントに漫画が欲しいと言ったときに断られたこともありました。お母さんなりに『学生時代は勉学に集中するべきだ』と私のことを考えてのことだとは分かっています。
実は小学校高学年くらいの頃にスクールアイドルを知って、『私もやってみたい』と話したこともあるんです。でも、『勉強の方を頑張りなさい』と言われて、結局許してもらえませんでした。
その一方で、良い成績を取ったり、作文で賞をもらったりすると良く褒めてくれました。私も期待されること自体は嫌いじゃないので、お母さんの期待通りに今まで頑張ってきました。それでも、身近な人に好きなことをわかってもらえないのはやっぱり寂しいです。寂しいですが、仕方ないと思うので、これからも親には秘密で好きなことをしていくつもりです。
「では、ごちそうさまでした。明日も文化祭の準備で遅くなります。」
「そう、頑張ってね。」
食事を終えてから歯を磨いて、その後は個室に自己学習をしに行きました。学習の合間も母がよく飲み物を差し入れてくれるのでありがたいです。
学習がひと段落したら、いつものごとく母には内緒でアニメを見ます。今季は私の好きなラノベの一つがアニメ化しているので、毎週楽しみにしています。
#第2話
幕間❶
ガタンッ。
ある日、私が菜々の部屋を掃除していたら、彼女の机の近くにあったケースをうっかり落としてしまった。
「あっ、いけない戻さな…きゃ。」
落とした拍子にロックが外れてしまっていたため、ついでに中身も少し気になって開いてしまった。
「何かしらこれ?」
中には本や小型の機械みたいなものがいっぱい入っていた。でも1番目を引いたのは、見知らぬ赤い服だった。
chapter.1
「おはようございます、お母さん。」
「おはよう。」
朝起きて着替えた後、お母さんと一緒の食卓につきます。
「文化祭最終日、頑張ってね。」
「はい、きちんと責任を持って引っ張っていきます。」
いよいよ文化祭最終日です。お母さんとの会話でも触れましたが、虹ヶ咲は専攻や部活動の種類が多く、文化祭となると本当のお祭りみたいに賑やかになります。販売や出し物一つ一つのクオリティも高く、入学希望者以外の外部からのお客さんもとても多いんです。お母さんが来たがるのも頷けます。
「行ってきます、お母さん。」
「いってらっしゃい、菜々。
そうだ、この前あなたの部屋で変わった服を見かけたけど、あれは何かしら。」
『変わった服』?もしかして、スクールアイドルの衣装のことでしょうか。もしかしたらこのまま、スクールアイドルをやっていることがバレてしまうのでしょうか…
「あぁ… あれは、服飾同好会の出し物の、サンプルを預かっているんですよ…。」
やっぱり嘘は苦手です。なんとなくそれっぽい繕い方をしましたが、隠し通せるか不安です。
「そう、ならいいけど。邪魔しちゃったわね。気をつけてね。」
なんとか誤魔化せたようです。マンションの階段を1番下まで降りた後は、急いで学校に向かいました。
chapter.2
文化祭の開会式の挨拶を生徒代表として述べた後は、同好会の皆さんと部室で打ち合わせをしました。
「お客さんの数、すごいね。フェスティバルで私たちを知って来てくれた人もいるみたいだよ。」
「はい、やっぱりフェスティバルはやって良かったですね、歩夢さん。」
「うん、たくさんの人達が見に来てくれるのはやっぱり嬉しいね。」
ちょっと上から目線気味で申し訳ないですが、歩夢さん、フェスティバルを通して一気に成長しましたね。他の皆さんも同じです。
しばらくすると、私たちの部室に遥さんも入ってきました。
「お姉ちゃん!」
「あっ、遥ちゃん。」
「リハーサルまでまだ時間ある?」
「うん、一緒に回ろっか。」
「おっ、じゃあ愛さんも一緒に回っていい?みんなで回った方が楽しいじゃん!」
「いいですよ。」
「いいよ〜。」
「ありがと!みんなも行かない?」
「私は行きたい。」
璃奈さんが3人について行きました。果林さんはというと…
「ありがたいけど、私は好きなように回らせてもらうわ。」
「果林ちゃん、道には気をつけてね。」
「そうですよ果林先輩。道に迷ったら恥ずかしいですよ〜。」
「ちょっとエマ!かすみちゃんまで…」
結局エマさんとかすみさんと回ることになったようです。
「リハーサルの時間までには戻ってきてくださいね〜。」
6人「はーい!」
そういうと、皆さんは部室から各展示に向かいました。
「では、私も演劇部の方で予定があるので、一旦失礼します。」
「承知しています。そちらも頑張ってきてください。」
「いってらっしゃい、しずくちゃん。」
「いってらっしゃい。」
私と侑さんと歩夢さんでしずくちゃんを見送りました。
「じゃあ、私たちも回ろっか。」
歩夢さんの提案により、私たちも3人でしばらく文化祭を回ることにしました。
chapter.3
文化祭を回るときは菜々モードで行動します。
私達はまず、しずくさん達の演劇を見てきました。そのとき、同好会の皆さんも全員来ていました。演目はアーサー王伝説の終盤の話であるらしく、主演はしずくさん、助演は部長さんでした。
しずく『何故だグヴィネビア!どうしてお前まで私の元から離れようとする?!』
部長『貴方が心優しい方だということも、国のために死力を尽くされてきたことも存じております。しかしお言葉ですが陛下、貴方は私個人のために、今までどのようなことをしてくださったというのでしょうか。』
しずく『それは…』
部長『他の円卓の騎士達に対してもそうです。口先だけで“信じている”、“愛している”といっても、それを身を持って態度で示さなければ、愛も信頼もないもの同然なのです。』
高校生の演劇の出し物にしてはハードなチョイスだなと思いました。でも、しずくさん、合同発表会の頃からさらにパワーアップしています。部長さんの演技も素晴らしいです。
その次は料理研究会のブースで昼食をとり、今は焼き菓子同好会のブースへクッキーを買いに行きました。自分達が食べたいというのもありますが、お母さんへのお土産に去年も買ったので、今年もそれで行きました。
「これください。」
「ありがとうございます。」
私が買ったのはチョコ味のクッキー、お母さんの好物です。
焼き菓子同好会といえば、以前歩夢さんと一緒にフェスティバルの準備をしていた方々もいました。
「歩夢ちゃん、今回もライブするんだって?楽しみにしてるよ。」
「ありがとう今日子ちゃん、4時からだから、きてくれると嬉しいな。」
「侑先輩も、音楽科に転科してから作曲するようになったんですよね。先輩の曲を歩夢ちゃんが歌うの、楽しみです!」
「ありがとう、講堂で待ってるからね。」
焼き菓子同好会の部屋を出た後、いつも聞いている声が聞こえてきました。
「あら、菜々じゃない。」
お母さんと鉢合わせしました。
「あ、お母さん。」
お母さんが文化祭にきてくれること自体は嬉しいですが、スクールアイドルやっているのがバレないかが少し不安です。先程も以上のことを聞かれてしまったので… でも、いつものように変装を徹底しますので、なんとかなると思いたいです。
「今、流しそうめん同好会のところに行ってきたところなの。
そちらは、お友達?」
付き添っている侑さんと歩夢さんのことを聞いてきました。2人とも、私の家庭の事情については以前少し話したことがあるので、少し緊張気味に答えていました。
「は、はい。せ…菜々ちゃんの友達です。」
「今、一緒に回ってます。」
侑さん、今うっかり“せつ菜”って言いかけましたよね?!歩夢さんの受け答えの方は幾分かスムーズに感じました。
「そうなの、菜々と仲良くしてちょうだいね。」
2人「はい。」
すると、歩夢さんが自分のスマホを取り出しめした。どうやら、リハーサルの予定を通知するように設定していたらしいです。
「いけない、そろそろリハーサルの時間だ。2人とも行こう?」
歩夢さんっ…!うっかり言ってしまったのでしょうけど、お母さんがいる前でリハーサルだなんて…。
「リハーサル?なんのことかしら。」
案の定お母さんも突っ込んできました。
「いえ、歩夢さん達の出し物のことです。
それでは、私も生徒会の仕事があるので失礼します!」
別に間違ったことは言ってません。とりあえず、私たち3人は急いで部室の方へ向かいました。
chapter.4
「ごめんせつ菜ちゃん。お母さんの前でリハーサルなんて言っちゃって。」
「良いですよ。それに、向こうも私自身が出し物をするなんて思ってないと思いますし、大丈夫だと思います。」
歩夢さんがさっきのことを謝ってくれました。
「でも、せつ菜ちゃんのお母さん、良い人そうだったよね。でも…」
「はい、趣味を禁止にしてること以外は、確かに良い人だと思います。
それよりも、部室へ急ぎましょう。」
部室には、すでにかすみさん、しずくさん、璃奈さん、愛さん、エマさん、彼方さん、果林さんが来ていました。
「全員そろったみたいですね。早くリハーサルに行きましょう!」
かすみさんの呼びかけで、みんなで講堂に向かいました。
リハーサルの最中、お母さんとのやりとりについて少し考えていました。家を出るときは衣装のことについて聞かれ、先程は侑さんと歩夢さんと同行しているところも見られてしまいました。それでもなんとか誤魔化せた気はするので、後はバレないことを祈るしかありません。あ、ちなみに家にあった衣装はというと、文化祭で着るため鞄に入れて持って行きました。
だけど…
「せつ菜ちゃん、もしかして、どこか具合が悪いの?」
「エマさん?いえ、ライブ前なので少し緊張しているだけです。
前も言いましたけど、フェスティバルで私達を知ってくれた方も大勢来ると思うので、その人達の気持ちにも答えなきゃって思ってます。」
エマさんにも心配をかけてしまいました。とにかく気合を入れ直さなければいけません。
「せつ菜さん、何か有れば私達がちゃんと相談に乗りますからね。」
「ありがとうございます、しずくさん。でも、心配はご無用です。」
そうこうしているうちに、やがてライブ本番の時間を迎えました。そしてライブ前には、お決まりの掛け声からパフォーマンスに挑みます。先陣を切るのは侑さんです。
「行こう!」
10人「私達の虹を咲かせに!」
幕間❷
文化祭のパンフレットに、変わった部活動の名前があった。
「スクールアイドル同好会?こんなのもあったのね。」
去年の文化祭にはいなかったから、多分今年にできたばかりの同好会だと思う。でも、菜々はこの同好会の話は一切していなかった。
「講堂でライブをやるのね。ちょっと見に行ってみようかしら。」
とりあえず講堂に向かうことにした。
講堂の近くに来たとき、外からも中の音響や叫び声がよく聞こえてきた。うるさい空間はちょっと苦手なのよね… でも、恐る恐るドアの取っ手に手をかけ、中に入ってみた。
その瞬間に見た光景に私は目を疑った。
「あれ?あの子…」
黒髪ロングでサイドテールを右に縛り、元気よく歌っている。そして身に纏う衣装は、私が菜々の部屋で見かけた赤い服。
走り出した!想いは強くするよ。悩んだら、君の手を握ろう。
なりたい自分を我慢しないでいいよ、夢はいつか、ほら輝き出すんだ!
弾み出した想いは嘘じゃないよ。涙から生まれる希望も。目には見えない力で繋がる。夢はいつか、ほら輝き出すんだ!
これでもかというくらいの熱量がこもった歌声。テレビでたまに見る歌手に勝るとも劣らない歌唱力。だけど注意深く聴いてみれば、それは私がよく知る声だった…。
chapter.5
「ではみなさん、文化祭お疲れ様でした。」
私達は全力で歌いきり、文化祭も無事に終了することができました。今はとあるファミレスで反省会と打ち上げをしているところです。
「やっぱり、思った以上にお客さんが来たわね。」
「またあんなに大勢の人の前で歌いたいなぁ〜。」
果林さんと彼方さんはいかにも『やり切った』って感じです。
「しず子、演劇部の方の出し物も良かったよ。」
「ありがとうかすみさん、みんなも、来てくれてありがとう。」
「しずくさんのアーサー王、カッコ良かったです!まるで私が知ってるアニメのキャラクターみたいでした!実は、そのアーサー王の性別も…」
そこからしばらくは止まらなくなってしまいました。
「せつ菜さん、嬉しいですけど、暑くなり過ぎですよぉ…」
ついいつもの癖が出てしまいました。しずくさんを困らせてしまいましたね。
「そういえば、姫乃ちゃんも来てたわよ。ライブの後に写真も撮ったわ。」
「果林さんほんと?!」
果林さん、そこまで姫乃さんと仲良くなってたんですね。侑さんが驚くのもわかります。
「彼方ちゃんも、遥ちゃんが応援に来てくれて嬉しかったなぁ。」
「アタシも、おばあちゃんとお姉ちゃんが来てくれたよ!」
愛さんのおばあさんと美里さんもいらしていたのですか。全然気が付かなかったです。
…あれ?そういえばライブ中、お母さん似の人が客席にいたような… 多分気のせいでしょうね。
それぞれのメニューを食べ終えた後、ファミレスから出てみんな真っ直ぐ自宅に帰りました。私も三つ編みを結び直し、自宅へ向かいます。
自宅ではいつも通り、お母さんが出迎えてくれました。
「ただいま。」
「おかえり。菜々、後でちょっとお話いいかしら。」
「え?」
お話ってなんのことでしょう。私はひとまず荷物を部屋に置いてから、母の元に向かいました。
「今日の文化祭で、“スクールアイドル同好会”っていうところの出し物を見たんだけど。」
そういう時母は文化祭のパンフレットを取り出しました。そして、同好会の写真が載ったページをめくりました。
こんなことは考えたくないですが、もしかすると……
そして、母はそのページにあった“優木せつ菜”の写真を指差して言いました。
「これ、あなたでしょ?」
第3話
chapter.1
お母さんとの家族会議になりました。ついに私が隠れてスクールアイドルをやっていることが、お母さんにバレてしまいました。こうなった以上、もう誤魔化しは効かないので、覚悟を決めて打ち明けることにしました。
「…はい、それは私です。今まで隠していて、ごめんなさい。」
「どうして隠れてこんなことしてたの?」
私は続けて答えました。そして、その他の私が好きなものについても触れました。
「だってお母さん、今までアニメや漫画とか、私の好きなことは禁止してきたじゃないですか。それでも、私は一度でいいから自分の大好きなことを思いっきりやってみたかったんです。今まで隠していたことは詫びます。でも、そうでもしないと、私は好きなことが出来なかったんです…」
「そう、でもあなた、勉強の方は大丈夫なの?今まで菜々は勉強と生徒会の仕事を一生懸命やってるものだと思ってたけど信じられない。」
「勉強の成績はちゃんと維持しています、だから…」
「それもそうだけど!」
今度は私の話の途中で口を挟んできました。その後に言われたことは、私も流石に聞き捨てならないものだと感じました。
「維持できてるからいいってことじゃないのよ… 大体スクールアイドルって、あなたの将来にどう繋がるの?内申書にスクールアイドルやってました、なんて書けると思ってるの?」
確かにそうかもしれません。でも、『だから無駄だ』みたいに言うのはやめてほしいです。
「それに、スクールアイドルなんてやってたら、知らない人に大勢見られるわけでしょ?あなたいつか外歩けなくなっちゃうわよ。
将来なんの役にも立たない、リスクも多い、そんなことをして何になるって言うの?時間の無駄じゃない?!」
お母さんなりに私のことを考えてくれているのはわかります。今までもそうだと思っていました。でも、そんな言われようをされると、流石に堪忍袋の緒が切れてしまいました。私が頑張っていることを馬鹿にされたどころか、同好会の皆さんのことも、スクールアイドルフェスティバルを含む皆さんと頑張ってきたことまで侮辱された気分になりました。
「明日、皆さんにちゃんと辞めるって言ってきなさい。それから、他にも何か隠れてやっているんでしょうけど、それも禁止…」
「お母さんにスクールアイドルの何がわかるっていうんですか…?私が何したっていいじゃないですか!どうしてそんなふうに自分の考えを押し付けるんですか!」
「押し付けるも何も、私はただ菜々のために…」
「私のためってなんなんですか?好きなことを禁止にして、今もこうして私から取り上げようとして、それが私のためですか!」
もう我慢の限界に達してしまいました。お母さんは口を開けて黙り込んだまま私の話を聞いていました。
「今までも私の本心に目を向けようとしないで、それで今は自分の考えを押し付けようとして… お母さんなんて…」
『それを言ったら終わり』だということは薄々勘づいていました。でも…
「お母さんなんて大っ嫌い!」
スクールアイドルを侮辱されたと思った私は、頭に血が上っていて冷静になれませんでした。そして、涙ながらにそう叫びました。
しかし、すぐに我に帰って、その言葉を言ったことを後悔しました。お母さんも、口を開いて立ち尽くしていました。
「ごめんなさい、今日はもう寝ますね…」
chapter.2
「おはようございます、お母さん…」
「おはよう、菜々…」
私は昔から、親とあんな風に喧嘩をしたことがありませんでした。それはお母さんの方も一緒で、お互い今の状況をどうやって乗り越えていけばいいかがわからない状態です。
「お母さん、昨日はごめんなさ…」
「いいわよ… もう嫌いなんでしょ…」
ついカッとなってお母さんのことを『大嫌い』なんて言ってしまいましたが、お母さんからすれば、あの一言でお母さんが私に今まで注いできた愛情を全て否定されてしまったと感じていると思います。朝ご飯はいつも通り作ってくれましたが、一緒には食べませんでした。
同好会での活動については、このままなあなあで済ませてしまってもいいような、そうではいけないような気もして、とても複雑です。
今日の放課後も部活がありました。文化祭の後も、同好会としてはまだまだやりたいことがたくさんあります。それなのに…
「せつ菜ちゃん、やっぱり具合悪いの?」
「せっつー、最近元気ないように見えるけど、どうしたの?」
「練習中も上の空って感じで、あなたらしくないわね。」
愛さんとエマさんは前から心配をかけていましたが、果林さんにも心配されてしまいました。
「せつ菜ちゃん、何があったの?」
彼方さんも心配している様子でした。侑さんや他の皆さんも、心配そうに私を見つめていました。
私は、自分の身に起こったことを皆さんに打ち明けました。
「侑さんと歩夢さん、愛さんと璃奈さんには以前お話ししましたが、私の家ではアニメや漫画、スクールアイドルを禁じられています。それが、文化祭の日に私がスクールアイドルをやってるのがお母さんにバレて、そのことで喧嘩になってしまったんです。」
「…それで正体を隠してスクールアイドルをしていたのね。」
「そうなんですかぁ?かすみんだったら、スクールアイドル禁止!なんて言われたら泣いちゃいますよ… せつ菜先輩が喧嘩になる気持ちもわかります。」
果林さんには、以前私が正体を隠している理由が期になると聞かれたことがありました。だから真っ先に答えたのでしょう。かすみさんの言っていることも最もです。
「はい。しかも、スクールアイドルのことを『無駄なことだ』って言われて……
それで、『大嫌い』って言ってしまったんです。それでお母さんを傷つけてしまいました。だから、謝りたいと思ってます。でも…」
しばらく黙り込んで考えていました。お母さんにあんなことを言ってしまって、お互いどうすればいいのかわからない状態です。そこである考えが浮かび、それをその場で話しました。
「…思えば、今もこうして皆さんと一緒に練習ができていますし、お母さんとの問題はもう時間の流れに任せてしまおうかと思いま…」
「ダメだよ…」
「璃奈さん…?」
璃奈さんが私の話を遮り、私の目を真っ直ぐ見つめて続けました。
「…それじゃあ、せつ菜さんも、お母さんも、きっと苦しいままだと思う。だから、ちゃんと話合わなきゃダメだと思う。」
璃奈さんのお家は両親がとても忙しく、そのため家族での交流が少なかったとお聞きしたことがあります。だから、今の私の問題に対しても思うところがあるのでしょうか。
「それでは苦しいままなのは私にだってわかります。でも、お母さんにスクールアイドルのことを解ってもらえるか不安です。それに、私自身もお母さんに嫌われてしまったように思います…」
すると、しずくさんが私に言いました。
「そうだ、せつ菜さん、お母さんに向けてライブをやってみませんか?」
「しずくさん?」
「せつ菜さんが歌っているところを見て貰えば、きっとお母さんにもスクールアイドルの良さが伝わるはずです。どうでしょうか。」
しずくさんの提案ならもしかしたら… 確かに実際に歌っているところを見てもらうのは重要かもしれないですね。
「そのライブ、もちろんかすみんたちも歌いますよ。せつ菜先輩のこともそうですけど、そうでなくても、やっぱり何も知らないで悪く言われるのは納得できませんから。ね、しず子。」
「うん。」
「かすみさん…」
かすみさんの言う通りです。2人の話を聞いて、ますます勇気が湧いてきました、
「それに、せっつーのお母さんは、せっつーのこと嫌いになんてなってないと思うなぁ。」
「愛さん。」
「うん!だから、逃げずに話せばきっと伝わるよ!」
愛さんにも背中を押されました。すると、侑さんが私の元に近づいてきました。
「せつ菜ちゃん、私も一緒にお母さんのところへ行くよ。」
「侑さん、でもお時間の方は大丈夫ですか?」
「1人よりも一緒の方が、心強いでしょ?」
なんだか目頭が熱くなってきてしまいました。続いて歩夢さんも私の前に出てきて言いました。
「せつ菜ちゃん、始まったのなら貫くのみ、だよ!」
そう言うと歩夢さんは私に向かって右の拳を真っ直ぐに突き出しました。
皆さんの顔を見ると、全員優しく微笑んでいました。もう目頭が熱いどころかではなくなり、涙が溢れてきました。
「歩夢さん、皆さん… ありがとうございます!」
私は涙を拭ってから、同じく右の拳で歩夢さんとグータッチをしました。
「じゃあ、練習が終わったら行こう、せつ菜ちゃん。」
「はい。お願いします、侑さん!」
chapter.3
放課後の練習が終わった後、侑さんと一緒に私のマンションの部屋の入り口まで行きました。このときはもう変身を解き、中川菜々に戻っています。
「やっぱり緊張します… 本当に大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だよ。さ、早く行こう。」
侑さんにそう言われてから、私は恐る恐るインターホンを押しました。すると、お母さんがドアを開けて出迎えました。
「菜々、お帰り… あれ?お友達?この前文化祭で会ったような。」
「はい、菜々ちゃんの友達で、スクールアイドル同好会の高咲侑です。今日は、菜々ちゃんのお話しを聞いてくれますか?」
「スクールアイドル、そう… それなら上がってお話ししましょう。」
私達はお母さんに言われて、家に上がって話をすることにしました。
話はリビングにて行われることとなりました。
「お母さん、昨日はあんなことを言ってごめんなさい。それと、今までお母さんに隠れてスクールアイドルをやっていたことも改めておわびします。
だけど私は、やっぱり侑さん達とスクールアイドルがしたい。他の好きなこともそうです。
…どうしてお母さんは、今までそれらを禁じようとしたんですか?」
お母さんはしばらく黙り込んでからゆっくり答えました。
「…私は、菜々がもっと勉強や将来に役立つことに励んで欲しくて、アニメやスクールアイドルに勤しんでいると、それらが疎かになってしまうんじゃないかと思っていたの。それが菜々にとって1番良いことだと思っていた。」
続いてお母さんは、スクールアイドルについての話をしました。
「スクールアイドルは、小6のときにやりたいって言ったとき、『やめておきなさい』って言ったでしょ?
それは、1番は菜々がそういうことをすれば、色んな人に注目される、その分知らない人から悪く言われたり、それで菜々の人生がめちゃくちゃになっちゃうかもしれないって思ってたからなの…」
お母さんが話し終えた後、私はしばらく間を置いてから答えました。
「そうだったんですね。お母さんがそう思うのは、お母さんなりに私のことを考えてくれていたからだということはよくわかります。でも、残念ですが私はそうは思わない…」
私は続けました。
「確かに、スクールアイドルをやっている以上、色んな人から期待されたり、あることないこと言われたり、それがプレッシャーになったりすることはあります。
でもそれだけじゃなくて、多くの人達とスクールアイドルが大好きな気持ちで繋がることだってできるんです。それで私は侑さんや同好会のみんなと出会うことができて、一度はスクールアイドルフェスティバルまで開くことができた。それは間違いなく、私にとってはどんなものにも替え難い大切なものなんです。
だから、それを取り上げられたり、無駄だったみたいに言われたりするのは、とても悲しいことです。」
もう一呼吸置いて、さらに続けました。
「他の好きなことだってそうです。日々の勉強の疲れとかを、アニメや漫画で癒したり、辛いことにも立ち向かえる力をもらったりすることができるんです。それだって、私にとっては大切なことなんです。」
最後に私はこう言いました。
「これからも今まで通り勉強の成績は維持しますし、生徒会長の活動も真面目に続けます。だから、私がスクールアイドルをやることを、認めてもらえませんか…?」
しばらくしてから、お母さんは答えました。
「…わかったわ。」
「本当ですか?!」
お母さんは続けました。
「菜々は昔から頭が良くて、勉強もそれ以外のことも、私がこれくらいやりなさいと言ったところまでなんでもやってくれる良い子だった。だけど、私もそれに甘えて色々なことを押し付けて本心に目を向けようとせず、知らないうちにあなたの笑顔を奪っていたのかもしれないわね…
そんな菜々が本当の笑顔になれる場所がスクールアイドルだって言うのなら、それを取り上げる理由はもうないわ。」
私は思わず涙をこぼして言いました。
「お母さん…!ありがとうございます!」
「よかったね、せつ菜ちゃん。」
「はい!侑さんもありがとうございます!」
隣にいた侑さんも喜んでくれました。そして、最後にもう一つだけ大事なことをお母さんに伝えました。
「お母さん、今度ダイバーシティで同好会のライブを開きます。そこに是非来てくれませんか?」
「良いわよ。」
「ありがとうございます。
スクールアイドルらしく、歌で誠意をお見せします。」
第4話
『MELODY』chapter.1
ダイバーシティのライブ当日、私達はまず会場の準備をしていました。会場では、何やら見覚えのある人が他のお客さんよりも一足早く来ていました。
「高咲さん!みんな!」
「副会長!」
生徒会の副会長です。彼女はスクールアイドル・優木せつ菜のファンなのですが、私は今、菜々モードでこの場にいるので、少し恥ずかしい相手です。
「ライブやるって言うから、急いで来たら早すぎちゃいましたね。
あ、会長も来てたんですね!」
「え、ええ… 今日のライブ楽しみですね。」
かすみさんと侑さんがやや不安そうに私の方を見ていました。
やがて準備の方も終わり、他のお客さんも大勢きました。そこには、お母さんの姿もありました。
「いよいよだね。せつ菜ちゃん。」
「はい、歩夢さん。いつものように、お客さん達に私達の大好きをお届けしましょう!」
「じゃあ、私は、観客席でみんなのこと見てくるからね。」
「ここはいつもの侑ね。」
間もなく、ライブの時間となりました。
幕間❸
ダイバーシティで菜々達がライブをやるというのできてみた。スクールアイドルのライブを見るのは文化祭以来になる。
どうやら、菜々の出番はまだ先だったらしく、しばらくは他の子達が歌っていた。
最初にピンク髪のシニヨンの子、その次に短髪ベージュの子、大きいリボンの茶髪の子、金髪の明るそうな子、顔にお面みたいなものを付けた子、栗色ロングの大人しそうな子、外国人っぽい子、青い髪の背が高い子が順々に歌った。
正直、青い髪の背が高い子と大きいリボンの茶髪の子以外は歌もダンスもあまり上手だとは思えなかった。だけど、その子も含めてみんな楽しそうに歌っていることだけは伝わってきた。とにかく歌うのが楽しくて楽しくて仕方ないって感じがよくわかる。菜々もそんな気持ちだったのかな?
どうやら菜々はヘッドライナーであったらしく、他の8人が歌い終えた後で菜々の出番であることがアナウンスされた。私が立ち尽くしていると、見覚えのある子が向かってきた。
「あ、中川さん!来てたんですね。」
「高咲さん…?」
「隣で見ても良いですか?」
「ええ。どうぞ。」
菜々の友人の高咲さんだ。私は彼女と一緒に菜々の歌を聴くことになった。
私は思い切って高咲さんに話しかけてみた。
「ねぇ、高咲さんは、菜々の歌が好きなの?」
「はい、とっても大好きです!初めて聴いた時にこれだ!と思ったんです。そして、彼女の歌があったからこそ、私も夢を見つけられたんです。
中川さんにも、きっと良さがわかると思いますよ。」
「そう…」
私が知らない間に、菜々は彼女の背中を歌で押してくれていたんだ… 高咲さんだけじゃない。ここに集まっている人達が、菜々やみんなの歌を楽しみにしている、それを聴いて、明日も頑張ろうって気持ちになってる。そう思うと、確かに菜々のやっていることは素敵なことかもしれないと思えた。
「あ、いよいよ始まりますよ。」
高咲さんに言われて、私は再びステージの方を向いた。
『MELODY』chapter.2
いよいよ私の出番が来ました。
「せつ菜ちゃん、ファイトだよ〜。」
「ありがとうございます、彼方さん。」
「頑張ってね。」
「璃奈ちゃんボード、ファイト。」
「エマさんも璃奈さんも、ありがとうございます。」
私はそのままステージの方は向かいました。
ステージまで行く途中、ライブに来ている皆さんのことを少しだけ考えていました。
私の後ろには、普段一緒にスクールアイドルとして頑張っている皆さんがいる。一度衝突したけど、今は同好会を引っ張ってくれているかすみさん、自分だけの面白い世界を持っているしずくさん、実は周りのことをよく観察している璃奈さん、皆さんを暖かく包み込んでくれるエマさん、良く寝ているけど実はとても頑張り屋な彼方さん、私をライバルだと認めてくれる果林さん、いつも皆さんを明るくしてくれる愛さん、私をきっかけにスクールアイドルを始めてくれた歩夢さん…
客席の方には、スクールアイドルじゃないけど、私のことを応援してくれる人がいる。私の大好きを受け止めてくれた繋いでくれた侑さん、今まで私を大切に育てて来てくれたお母さん、そして、いつも私を応援してくれて、共に夢を見てくれるファンの皆さん…!
みんな、私の大好きな人達ばかりです。そんな人達が私の背中を押してくれる限り、怖いものなんてありません!
私はステージに立ち、まず一言皆さんに伝えました。
「今日は私達のライブに来てくれてありがとう!この歌は、誰よりも味方でいて欲しい人に届けます。」
ステージに夕日が差し込み、同時に曲名を告げました。
「それでは聴いてください!『MELODY』!」
前奏が始まるのと共に、観客席の皆さんのペンライトが赤一色に染まりました。空も夕焼けに染まり、空も地上の皆さんも私の背中を押してくれている気がしました。
さぁ、もうすぐ歌い出しです!
好きなこと私だってここに見つけたんだ
力いっぱい頑張れるよ本当の自分だから
誰よりも味方で いてほしいあなたへ
心の奥まで届きますように 今日も信じて歌うよ!
走り抜けた想いが心を染めてまっかっか
涙飛んでった
道は不確かだけど好きだからできる
私らしく輝いていける気がして
光が差し込んだ これから先もずっとステージを照らすように
強く願い込めた歌を あの空までほら届け!!
ここからさらにヒートアップしていきます!
『なんで私のことわかってくれないんだろう?』
言葉にして初めてわかり合える
歌っている途中で、お母さんの顔が少し見えました。どうやら侑さんの隣で見てくれているみたいです。2人とも、精一杯声を出して応援してくれています。他のファンの皆さんも同じです。
私の歌も、いよいよ大サビに突入します!
抱きしめてた想いがここにずっとあったんだ 空にはじけてった
真っ直ぐ伝えることももう怖くないよ
これからはなんでも話せる気がして
光が差し込んだこれから先もずっとステージを照らすように
強く願い込めた歌をあの空までほら届けーーーーーー!!!!!!!!!
エピローグ
ライブは無事に終了し、ダイバーシティには私と同好会の皆さん、そして、お母さんだけが残っていました。
「お母さん、どうでしたか?」
まずはお母さんにライブの感想を聞いてみました。
「とっても素晴らしかったわ。これが菜々が大切にしてきたものなのね。」
涙を拭いながら答えてくれました。同時に、私以外の皆さんの歌の感想も言っていました。
「他の皆さんも良かったわ。スクールアイドルってやっぱりすごいのね。」
皆さんもニコニコしています。
すると、果林さんから質問がありました。
「せつ菜、これでお母さんにもスクールアイドルをやるのを認めてもらえたわけだけど、学校のみんなにも正体を明かしちゃう?」
それについては即答でした。
「それはしません。
確かに、もう正体を隠す必要はなくなったかもしれないですが、やっぱりステージの上ではちゃんと『優木せつ菜』でいたいですし、見てくれる人にもそう思ってもらいたいです。」
これが私の信条です。それに、正体を明かしたら、特に副会長なんかは夢が壊れてしまいそうな気がしますから。
私は続けました。
「だからせつ菜の正体が菜々だということは、皆さんと、そしてお母さんとの秘密です。」
そう言ってお母さんの方にも微笑みかけると、お母さんも微笑み返してくれました。
ここで愛さんからある提案がありました。
「そうだ!今日うちの店でライブの打ち上げやろうよ!それで、せっつーがお母さんと仲直りできたこともお祝いしようよ。」
愛さんはお母さんの方を振り返って続けました。
「もちろん、中川さんも一緒で。」
「え?いいの?」
「はい、美味しいもんじゃ焼き、ご馳走しますよ!」
こうして私達は、愛さんのお店に向かうことにしました。
道中で私は、侑さんとお話ししていました。
「お母さんとの出来事で、一つ思ったことがあるんです。」
「何?」
侑さんに聞かれて、私は続けました。
「私は、自分の大好きも、他人の大好きも否定しない生き方を目指してきました。でも、自分の大好きをわかってもらうのも、他人の大好きを理解するのも、とっても難しいことなんですよね。」
「うん。」
「だけど、相手の大好きを受け止めて、それをわかろうとする努力は、やめたくないと思いました。それは同好会の皆さんにも、お母さんにも、ファンの皆さんに対しても一緒です。」
「せつ菜ちゃんらしいね。」
侑さんの返事を受けて、また続けました。
「それでも、その努力をしたとしても相手と自分の大好きなことがわかり合えるかどうかはわからない。
自分と相手の価値観が合わなくても、それをわかった上で自分の好きなことを続けるためには自分の気持ち貫かなければならないこともあるんだなと思いました。」
侑さんはしばらく私の方を見つめてから答えました。
「そっか。でも、それだって大事なことだと思う。せつ菜ちゃんはそれでいいんじゃないかな。」
「そうですよね。ありがとうございます。」
そして私は、一度皆さんの方を振り返って言いました。
「皆さん…!」
私が呼びかけると、皆さんは私の方を向いてくれました。
「今日は本当にありがとうございました!これからも、よろしくお願いします!」
完