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『これは虹ヶ咲というシリーズの“お祭り”だ』虹ヶ咲アニメ感想・総括

 2020年10月から12月にかけて、ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のアニメ版、通称“アニガサキ”が全13話放送されました。

 虹ヶ咲はソロの集まりということもあり、今まではグループ単位の話でやってきた「ラブライブ!」シリーズとしては異色の作品だったのではないかと思います。今回は、虹ヶ咲のアニメが最終回を迎えたということで、アニメ全体を総括する記事を書きました。長くなると思いますが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

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目次

 

1.ストーリー全般の感想

①キャラ描写全般について

a.ソロの集まりのスクールアイドル

 冒頭でも触れた通り、虹ヶ咲はソロの集まりという体制をとっています。アニメ化する前からも、ユニット曲以外はアルバム単位で各メンバーのソロ曲が全員曲と合わせて一曲ずつ収録されていたり、公式の4コマ漫画や虹ヶ咲の母体であるスクスタでも度々ソロアイドルであることが強調されたりしてきました。そのために、アニメではどのようにして各メンバーを見せていくのかが気になりました。

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  実際に蓋を開けて見ると、1クールで各メンバーの個人回を全員分がっつり行うというものでした。さらに、第3話でラブライブ!大会の存在についても触れられたものの、そのラブライブ!大会には出ないという方針にもなりました。「ガンダム」シリーズに例えると、無印と「サンシャイン!!」が宇宙世紀シリーズで虹ヶ咲が「Gガンダム」以降のアナザーガンダムのポジションに当たるともいえます。グループ単位で活動していた今までの作品と比べると、終盤の11〜13話以外は各話1話完結のオムニバス形式で話が進んでいるという印象が強かったです。そのために、ライブシーンと合わせて『とにかく同好会のアイドルを見てくれ』という製作陣の作品愛を感じました。アニメの時空で虹ヶ咲のみんながソロ路線をとると決めたのは宮下愛加入回の第4話『未知なるミチ』からになりますが、それまでの経緯として、もともと優木せつ菜中須かすみ桜坂しずく近江彼方エマ・ヴェルデの5人からなる旧同好会時代にメンバー同士の価値観の合わなさから部が内部崩壊してしまったために、新生同好会では各メンバーがそれぞれの価値観に合ったスクールアイドル活動をできるようにソロという形をとったということがあります。虹ヶ咲の原作に当たるスクスタでは、昨今のソシャゲよろしくキャラを多数増やす商売を行いやすくするためにソロ路線をとっていたという印象が強かったですが、アニメではそういった虹ヶ咲のコンセプトを『同じ場所で違う価値観が共存する』、『自分たちの好きなことを追求するが他者とのつながりも重んじる』という現代的なテーマに昇華したことは見事だと思います。しかし、ソロでやるというはステージに立つのは1人ということなので、それに伴う不安もみんなにはありました。そういうソロ故の不安を第4話、そして第9話で描写していたところもポイントです。


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 また、オムニバス形式であるがために、各メンバーの話ごとに別々のメッセージが込められているように思いました。個人的に『この個人回にはこういうメッセージがこめられていそうだ』というのをここにリストアップしていきます。ここに記すのはあくまで個人的な見方です。

  • 第1話の歩夢&侑回→『これだ!というものを見つけたら躊躇わずにやってみよう』
  • 第2話のかすみ回→『可愛いも格好いいも、様々な価値観が共存する場所こそが理想』
  • 第3話のせつ菜回→『他人の大好きを尊重することは自分の大好きを否定することではない』
  • 第4話の愛回→『楽しいことに正解はない』
  • 第5話のエマ回→『やりたいと思ったそのときから事は既に始まっている(エマの台詞そのまま)』
  • 第6話の璃奈回→『苦手なところは無理に克服しなくても得意なところでカバーすれば良い』
  • 第7話の彼方回→『生活を守るのも好きなことを続けるのも両方大切なことだからお互いの助け合いが必要』
  • 第8話のしずく回→『何かを演じているときの自分も紛れもない自分自身』
  • 第9話の果林回→『1人で何かをしていても支えてくれる人がいる』
  • 第11,12話の歩夢回→『前に進む度に大切なものが増えていく、その一方で今まであったそれらが消えてなくなるわけではない』

 特に第9話の果林回『仲間でライバル』は、個人回シリーズのトリであったためか、今までの各メンバーの個人回を決算するかのような内容であったと思います。『仲間でライバル』という理念は第7話『ハルカカナタ』で彼方と妹の遥が果林よりも先に体現してみせたという印象もありますが、果林回がなければその方向性も強固なものにはならなかったでしょう。

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 続いて、「ラブライブ!」といえばやはり楽曲。そういうわけで、楽曲の話に移ります。

 楽曲はどれも素晴らしく、アニメ化前の各メンバーの持ち歌のテイストを良い感じに引き継いだものも有れば、エマの『La Bella Patriaや彼方の『Butterfly』のような今までの曲の作風からは想像もつかなかったようなテイストの曲まで様々でした。また、各メンバーごとにソロのMVがもらえたことは非常に贅沢に思います。第1〜5話では心象風景を使った演出が多く見られましたが、第6話からは実際のステージを使ったライブが増えたために徐々に地に足ついていったという風にも感じられました。


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   (皆さんのお気に入りの曲はどれですか?)

 また、既存曲では優木せつ菜の『CHASE!』がアニメで登場し、侑と歩夢の夢の始まりになったというところも、せつ菜推しとしては大変嬉しいポイントでした。


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 最終回に歌った全員曲の『夢がここから始まるよ』も、アニメ化前の全員曲である『Love U my friends』にも似た爽やかさと達成感のある一曲で、それぞれの好きなことを追求することと、メンバーを含む他の人と楽しいことを共有することを諦めずにいた同好会のみんなだからこそ歌えたアニガサキのラストを飾るのにふさわしい曲でした。

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b.とにかくキャラに好印象を持たせ続ける工夫

 アニガサキを見ていて思ったことは、各キャラのヘイト管理やキャラの株を上げる描写が上手いというところもありました。例えば、旧同好会の廃部騒動のときにせつ菜が暴走して同好会の雰囲気がギスギスしていたところでかすみが真っ先に反抗したことで、片方にヘイトが溜まるのを防ぎ、さらに両者とも悪気はなかったことをきちんと描写してから気持ちよく解決できる文脈に持っていくことでヘイト分散ができていたと思います。序盤の果林とエマについても、エマが果林に廃部のことを相談し、果林がエマの助けに回ることで2人の株上げができていたと思います。

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 第3話のせつ菜回については、『流石に廃部にまでする必要は果たしてあったのか』という疑問も残りましたが、主要メンバーの中では一際ヘイトを溜めやすそうなせつ菜の正体バレ(せつ菜は偽名を使ってアイドルをやっており、その正体は生徒会長)と加入を早い段階で済ませるというのは良き采配であったと思います。このときせつ菜の正体を見破ったのは果林であり、序盤はとにかく果林の株が上がり続けました。


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果林『“優木せつ菜”の名簿はどこにいったのかしら』

せつ菜『勘のいい上級生は嫌いですよ』

 

 果林自身の方も、第6話で璃奈が練習に来なかったときに練習を終わりにしないかと言ったり、第9話の個人回ではDiver FESに相応しいメンバーを選ぶべきなどのシビアな発言が目立ちますが、その一方で璃奈のライブのためにモデルの仕事に休みを入れていたり、Diver FES本番で自信をなくしかけたりするなどの柔らかい一面もすぐに描写されていたため、性格がきついわけではないという印象を持てました。

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 ここまでのヘイト管理については、『メンバーを良く見せよう』というよりも『悪く見えないようにしよう』という方向性の気遣いを感じます。

 

 ヘイト管理は主要メンバー以外の脇役にも行き届いており、その脇役一人一人にも好感を持てました。

 第6話で登場した璃奈のクラスメイトは、璃奈が表情を上手く出せないことをからかったり気味悪がったりせずに、そこまで親しくなかったときも明るい態度で接してくれていてよかったと思います。

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 第7話の彼方回では、彼方が家事や遥の世話をやっている中で娘2人に母が大変な思いをさせているのではないかと思った視聴者もいたと思いますが、7話終盤の母の置き手紙から、親子の絆は崩れていないことがわかったのも良かったです。

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 演劇部の部長も、第8話でしずくを舞台の主役から下ろしてしまうといったことをしていましたが、最後は主役のしずくの助演として彼女を助け、ひいてはスクールアイドルフェスティバル(以下スクフェス)で同好会を応援していたところが好印象でした。


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 スクフェス承認の話で登場した副会長も、侑からスクフェスの話を聞いてスクールアイドルのことを知ろうとしてくれていた姿勢には好感が持てました。また、そこでちゃっかりせつ菜推しになっているところも可愛かったです。

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 余談になりますが、このようにして一般人のスクールアイドルに対する反応を細かく描いていたところも、アニガサキの面白い部分だと思いました。そのために、モブキャラ一人一人も生き生きとして映っていたように思います。

 

②ファンとアイドルを繋ぐ、高咲侑の物語

 アニガサキには、高咲侑の物語という一面もあります。

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 高咲侑は、原作スクスタのプレーヤーキャラ(通称:あなたちゃん)に当たる人物であり、ラブライブ!」アニメシリーズでは初のスクールアイドルではない主人公です。侑は第1話でせつ菜のライブに感銘を受け、幼馴染でもう1人の主人公である上原歩と共にスクールアイドルの世界に入っていきます。その後、各話で同好会メンバーとの交流を深め、彼女達のパフォーマンスを見ていく中で自分も本気で何かがしたいと思うようになり、やがてスクフェスを発案・開催するまでに至ります。さらに、物語終盤では音楽科に転科することを決めており、その“好き”の気持ちは際限なく広がっていきました。アニガサキの物語は、ソロのスクールアイドルの話だけでなく、侑がスクールアイドルを通して自分が本気でやりたいことを見つけるまでの話でもありました。思えばこれは本当に小さな一歩に過ぎないと感じます。しかし、最終回の感想記事でも書きましたが、その小さな一歩を踏み出すことにも意外と勇気と時間が要るのかもしれないし、その小さな一歩が自分自身に大きな変化をもたらすのかもしれないと思いました。

 また、侑は10話でスクフェスを発案したときに『ファンとスクールアイドルが垣根を越える、スクールアイドルもファンのみんなもそれぞれの場所で自分の好きを表現する』ことも理念の一つとして上げていました。その他にも、最終回における『私にあなたがいてくれたように、あなたには私がいる』という歩夢の台詞は、ファンに“大好き”を発信するアイドルとそれを受け止め支えるファンの関係性を簡潔に表しています。これらを通してアニガサキは『ファンとアイドルの物語』という一面もあると感じました。ある意味、虹ヶ咲の初期からのコンセプトである『あなたと叶える物語』をアニメの文法で体現していると思います。

 スクールアイドルフェスティバルでファンも出し物を行うくだりはよくある学校の文化祭を彷彿とさせましたが、学園内で活動する“スクールアイドル”を題材にした作品だから出来たことであると思います。スクールアイドルは「ラブライブ!」シリーズの花形ですが、ファンの方でも何かができるはずだと思わせてくれる作品であり、逆にスクールアイドルからファンへお返しをする作品であると思いました。

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 侑にはファンの代表的な立場の主人公だからこそ持てる役割がもう一つあります。第10話における音楽室でのせつ菜との会話にて、『ステージの上ではみんな輝いて見える』とせつ菜に言ったところ、せつ菜から『侑さんからはそんな風に見えているんですね』と言われました。スクールアイドルではない者の視点から物事を見ているからこそ、スクールアイドル自身が持つ魅力を気づかせてくれるというところも、侑の重要なポジションであると思います。

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 準主人公・せつ菜の視点で見てみると、自分自身は幕引きのつもりで行っていたライブが侑と歩夢の心を動かし、やがてスクフェスという大舞台に繋がっていったという見方もできます。もちろん、侑の心を動かしていたのはせつ菜以外の同好会メンバーもそうであり、やはり決定打になったのは第9話の果林のDiver FESのステージであったと思います。ある意味、果林が第6話で同好会に入るのを遠慮したままではスクフェス開催はなし得なかったのなもしれません。果林を同好会に招き入れたエマも大役でした。そういう意味では、『誰かが発信する大好きが誰かの心を動かし、新しい夢が生まれる』『我慢せずに自分の大好きを発信していれば、それが他人の行動を変えることもあるかもしれない』というエンタメそのものに対する賛歌のような文脈も感じ取れました。

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 またせつ菜推しとしての話になってしまいますが、お付き合いください。せつ菜はアニメ化前から『大好きがいっぱいの世界』を作りたいと言っていました。アニメでは自分のパフォーマンスか侑の心を動かし、やがてスクフェスという大好きがいっぱいの世界に繋がっていったと思えば、せつ菜の頑張りも報われた気がします。

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 かつてせつ菜と衝突してしまったかすみの『かわいいもカッコいいも共存できるワンダーランド』という夢も、スクフェスで叶えられたのだと思いました。

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2.あらゆる虹ヶ咲媒体の総決算

 アニガサキは、スクスタを含む今までの虹ヶ咲媒体のネタを各話に散りばめており、虹ヶ咲媒体の総決算とも言える作りになっています。そういう意味では、この記事のタイトルの通り『虹ヶ咲というシリーズのお祭り』と言えるのかもしれません。だからといって虹ヶ咲初見の人やスクスタ未プレイの人が楽しめないわけではなく、今までの媒体の要素を集めつつもオリジナルストーリーに再構築しているため、新規の人も楽しめる内容になっていると思います。第3話まではスクスタ序盤でもあった同好会廃部騒動をややなぞる感じでしたが、それより後は完全オリジナルストーリーです。

 

 スクスタ以外にも、過去の虹ヶ咲の媒体のネタも拾っています。アニガサキで拾われた過去媒体の要素といえば、例えば、ライブシーンで度々映る手描きのカットではスクスタでも登場した衣装を着ているメンバーの姿が見られます。


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 せつ菜のMVだけは、スクスタの衣装を用いたカットが見られませんでしたが、『CHASE!』のライブシーンではアニメ化前からあった衣装を着ていました。
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 スクスタのネタ以外にも、ファンの間では一時期物議を醸していたファミ通app時代のちょぼらうにょぽみ氏の4コマ漫画のネタまで拾っていました。


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 ミヤコヒト氏による看板4コマ「にじよん」からも引っ張ってきたネタがありました。


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 アニガサキはこういった小ネタの使い方も上手いと思います。

 スクスタをなぞるのではなく、スクスタを含めた今までの虹ヶ咲の要素を全て分解し、再解釈、再構築を行なっているという見方が妥当かと思います。
 

 スクスタや虹ヶ咲の4コマだけでなく、スクフェスへのリスペクトもありました。これについては、虹ヶ咲のメンバーであるエマ、彼方、しずくがスクフェスのモブ出身のキャラだからこそスムーズに使えたという気がします。


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 その一例として、彼方の妹・近江遥に代表される東雲学院のメンバー、綾小路姫乃に代表される藤黄学園のメンバーがアニガサキでは声付きで登場しました。


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 これは単なるファンサービスではなく、第10話で侑がスクフェスを発案するに向けて他校との繋がりを得ていく布石としての機能を果たしていました。同好会再結成からスクフェス開催に向けて、こうして他媒体の要素を交えつつスケールを広げていく構成は面白かったです。スクスタ関連だけかと思いきや、スクフェスのネタも拾ってきたという点については脱帽しました。スタッフの「ラブライブ!」愛を強く感じる世界観構成であったと思います。

 

3.「ラブライブ!」らしくない?いや、そんなことはない

 虹ヶ咲は冒頭と1.で書いたようにソロが主体なことやラブライブ!大会を目指さないストーリー展開もあって、ラブライブ!らしくない』と感じた人も多いと思います。確かに、そういう点に関しては虹ヶ咲の「ラブライブ!」らしからぬ点であると思いますし、作風も今までのシリーズと比べればどちらかといえば「けいおん!」や、シリーズ構成が一緒の「ゆるキャン△」などの日常系アニメ寄りのものであったとは感じます。しかし自分は、虹ヶ咲も立派な「ラブライブ!」シリーズのアニメであると胸を張って言える気がします。なぜそう思うのかをこの段落で触れたいと思います。

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①虹ヶ咲にも共通するラブライブ!らしさ

 まずは序盤の話から。無印なら穂乃果がA-RISEの映像を、「サンシャイン!!」なら千歌がμ'sの映像を見てスクールアイドルの世界に入り込んだように、アニガサキでは侑と歩夢がせつ菜のライブを見てスクールアイドルの世界へと入り込んでいきます。穂乃果も千歌も、侑と歩夢も、物語開始前は特に夢を持たずに過ごしていたところをスクールアイドルに出会い、自分の夢を持つようになっていく部分が共通しています。夢を持たない女の子がスクールアイドルみ魅せられて自らの生き方を形作っていくというのは「ラブライブ!」シリーズ共通のテーマです。

 次に、無印「ラブライブ!」では南ことり『普通のアイドルなら私たちは失格』と言っており、その後に『スクールアイドルなら輝ける』という旨の発言をしていました。「サンシャイン!!」の千歌も、自らのことを普通怪獣と言いながらもやがては仲間と共にラブライブ!大会優勝までたどり着きました。ことりと千歌の発言はある意味、『持たざる者もアイドルとして輝ける』という部分もスクールアイドルの素晴らしさであるとも言っているように思います。虹ヶ咲では、第6話の璃奈がまさにそれを体現していたと思います。璃奈は表情を作るのが苦手で、ボードを使って歌うことを選びました。それはおそらく、普通のアイドルなら受け入れられづらい要素だと思いますが、スクールアイドルという分野だからこそ成せた表現手段といえます。

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 また、過去作で例えるなら、璃奈はμ'sの小泉花陽星空凛Aqours黒澤ルビィに近しいものを感じます。

 

 さらに虹ヶ咲では、過去の2作と同じくスクールアイドルのことを高校生である『今しかできないこと』と第5話で表現していました。これはもし続編が有れば卒業シーズンの話で触れられるようなことだと思いますが、高校生活の限られた時間の中で輝けるからこそのスクールアイドル、アイドルものだけど青春モノという根幹を成すテーマはやはり過去作と共通している部分であると思います。

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 「ラブライブ!」シリーズにおける共通のテーマである『みんなで叶える物語』という部分について。虹ヶ咲ではそれがスクールアイドルフェスティバルという形で実現されました。

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 第10話の感想記事でも書きましたが、スクフェスという一つの『みんなで叶える物語』の発案者で中心人物である侑は、スクールアイドルではないものの、紛れもない「ラブライブ!」主人公です。

 

②スポ根ではない、文化系のラブライブ!

 一方で、過去作と虹ヶ咲はやはり決定的な違いもあります。

 まず虹ヶ咲は、スクールアイドルをよりエンタメとして扱っていたという印象を受けます。過去の作品ではスクールアイドルをやる上で廃校問題も絡んでいたのに対し、そのような話とは無縁な虹ヶ咲は『とにかく楽しいことをやろう、それをファンのみんなとも共有しよう』というノリの作品でした。

 それから、無印と「サンシャイン!!」がスポ根モノなら、虹ヶ咲は文化系であると自分は考えています。過去の2作はみんなで一つのことを目指す話だったのに対し、虹ヶ咲は各々が自分の好きなことを追求していたという点においては、スポ根ではなく文化系であると思います。これは他校のスクールアイドルの描き方にも表れています。これは他校のスクールアイドルの描き方にも表れており、過去2作に登場したA-RISEとsaint snowは主人公チームと同じ目標を競うライバルという感じでしたが、アニガサキにおける彼女達と似たポジションの東雲学院と藤黄学園は、虹ヶ咲の視点から見ると美術部などが他校と合同で展覧会を開いたりするようなノリの仲であるという印象がありました。

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  ラブライブ!大会の扱いについては、1.で述べたように虹ヶ咲では出ないこととしていますが、これは『スクールアイドルをやる上で大会や勝ち負けに拘らないやり方でも良い』と、過去作とは違うもう一つの解答を出しているものだと思います。みんなで一つのことを目指し、『友情・努力・勝利』の三原則に忠実な王道の無印と「サンシャイン!!」に対し、あえてその路線を外した邪道の虹ヶ咲という見方もできると思います。

 ちなみに、ここでは過去作を貶めて虹ヶ咲を持ち上げるという意図は全くないので、悪しからず。自分は過去の無印と「サンシャイン!!」もとても好きです。

 

あとがき

 今回は虹ヶ咲アニメ全体を総括する記事を書かせていただきました。とにかく、このような素敵な作品を送ってくださったスタッフ一同には『お疲れ様でした』と言いたいです。

 アニメの終わり方自体は、まだまだ同好会のみんなの活躍は続いていきそうな雰囲気があるものの、クリアすべきことはクリアした分すっきりとしたエンディングだったと思います。その一方で、せつ菜の家庭の話やエマのスクールアイドルのルーツ、愛の祖母の話や彼方の母のことなどの掘り下げられていない部分もあるため、続編にも淡い期待があります。

 特に彼方の母については、置き手紙で『娘達のライブに行きたい』という旨のことを書いていましたが、スクフェス当日はその人らしき姿が見当たらなかったため、2期があれば彼方の個人回のライブシーンを見に来て欲しいなと思います。

 せつ菜の家庭の話については、せつ菜推しとして絶対にやってほしいと思っている部分です。本文でも書いた通り、今季の1クール分でもせつ菜は報われていると感じますが、趣味を禁じている親と本心で話し合えるようになってこそ、せつ菜には本当の幸せが訪れると考えています。それから、侑が音楽科に転科するとなると、各メンバーの曲を侑が作る話もやるのかなと思います。そうなると、侑と他のメンバーの絡みが増えそうなので楽しみです。

 

 今回はとても長い記事になってしまいましたが、最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。アニガサキの展開をこれからも楽しみにしています。