令和コソコソ噂話 ~鬼滅の刃プロトタイプ「過狩り狩り」「鬼殺の流」感想~
どうも皆さん、澄田兼鈞と申します。はじめてのお方ははじめまして、そうでないお方はお久しぶりです。
今回は、令和コソコソ噂話。大ヒット漫画「鬼滅の刃」にも、前身となる漫画があったらしいよ。
そんな「鬼滅の刃」の前身となった読み切り漫画「過狩り狩り」と「鬼殺の流」を紹介すると共に、「鬼滅の刃」との比較をしていきたいと思います。
「鬼滅の刃」は、大正時代を舞台に主人公・炭治郎が鬼なった妹・禰豆子を救うため、人間を鬼から守るため、鬼殺隊の一員となって仲間と共に戦う話ですが、その前身となる2作はまた一味違ったストーリーです。
(左:鬼殺の流が収録されている鬼殺隊見聞録、右:過狩り狩りが収録されている吾峠先生の短編集)
自分は「鬼滅の刃」を、ジャンプ本誌で連載開始の頃から読んでいました。アニメも追いかけ、その影響で単行本も集めるようになりましたが、まさか今みたいなメガヒットになるとは思いませんでした。主題歌が2019年の紅白で披露されたり、今年10月にコミックス7、8巻の話に当たる「無限列車編」が映画でやることが決まったりしてますよね。それにはやっぱり、後述の本題で触れる主人公の存在が大きいかな、と思います。では早速、漫画の紹介に移りたいと思います。
では、本題に入りましょう。
目次
1.過狩り狩り
「鬼滅の刃」プロトタイプ読み切りの一作目。週刊少年ジャンプに掲載され、今は吾峠先生の短編集で読むことができます。舞台は「鬼滅の刃」と違い大正時代ではなく明治時代で、主人公が戦う敵は鬼ではなく吸血鬼です。吾峠先生(鬼滅の刃の作者)は、『ハンデがあっても普通の人より強い剣士を描きたかった』ということと、『着物を着た吸血鬼は誰も見たことがないだろう』という意図のもとにこの作品を書きました(主人公については登場人物の紹介で触れます)。
①主な登場人物
ナガレ
主人公。吸血鬼を狩る剣士。鬼狩りの師範に拾われて育てられた。鬼狩りの選抜試験で右腕を切断しており、視力も失っている。
吸血鬼
文字通り人の血を糧にする怪物。伝承のある西洋から来る者もいれば、古くから日本に生息している者もいる。
時川
日本産の吸血鬼。ジャケットに白いハットという服装をしており、残忍な性格の持ち主。西洋の吸血鬼が自分の縄張りに侵入してきたのでそれを潰そうとしている。
珠世
日本産の女性吸血鬼。時川に協力しており、自分の血の匂いで相手に幻覚を見せる奇術を使う。
愈史郎
日本産の吸血鬼。珠世に付き従っているため、時川にも従っている。視覚を補助する特殊な札を用いる奇術を使う。
②感想など
主人公のナガレが寡黙な人物ということもあり、「鬼滅の刃」以上にダークでシリアスな雰囲気があります。あと、たった一話の読み切りですが、その中の情報量が多く、一度読んだだけではわかりづらいなと個人的に思います。また、ナガレ自身の人物像に迫る描写が少なく、他の登場人物に比べて目立っている印象が少ないです。主人公のキャラを立てることについては、後に吾峠先生が同じくナガレを主人公として描いた「鬼殺の流」で改善されたと思います。ですが、所々に今の「鬼滅の刃」に通ずる要素が見られる作品です。
例えば吸血鬼の時川は、登場人物紹介で上げた服装と設定から、「鬼滅の刃」において人食い鬼の起源にして炭治郎達の宿敵となる鬼舞辻無惨の前身となった人物であることが伺えます。
(「鬼滅の刃」の鬼舞辻無惨)
ただし時川は無惨のように同胞を増やす描写はありません(あと無惨の方がイケメンです)。
それから、珠世と愈史郎は「鬼滅の刃」にも登場する人物で、「鬼滅」で使う血鬼術と似た能力をここでも使い、キャラデザも「鬼滅」と一緒です。しかし、ここでは無惨ポジションの時川に従っています(「鬼滅の刃」では二人とも鬼でありながら無惨に反抗していますね)。
(「鬼滅の刃」の愈史郎と珠世)
その他にも、鬼狩りの最終選別や伝令烏など、「鬼滅の刃」にもある設定が見られます(最終選別はナガレの回想で触れられました)。流石に細かいところまでは違っています。
余談になりますが、「過狩り狩り」の敵キャラを務めた吸血鬼は、本来西洋に言い伝えのある怪物ですが、その伝承における吸血鬼と「鬼滅の刃」の人食い鬼の特徴には共通点が多く見られます。例えば、元人間であること、日光の下では生きられないこと、同胞を新しく増やせること(ただし人食い鬼の方は基本無惨しか仲間を増やせません)、歳をとらない、といった点が共通しています。このことから「鬼滅の刃」の人食い鬼は、日本古来から言い伝えのある鬼よりも、西洋の吸血鬼に近いと言えます。
2.鬼殺の流
吾峠先生による「鬼滅の刃」プロトタイプシリーズの第二弾。全三話構成となっていますが、こちらはジャンプ本誌には掲載されず、連載会議も通りませんでした。しかし、「鬼滅の刃」公式ファンブック・鬼殺隊見聞録にその三話分のネーム(※1)が収録されています(ただしネームだけです)。こちらの作品も、明治時代が舞台となっており、主人公も「過狩り狩り」と同じくナガレが務めます。
①主な登場人物
流(ナガレ)
主人公で鬼殺隊の一員。寡黙な性格。鬼殺隊の最終選別で右腕、両足、視力を失う。足は義足。
伴田左近次
流の師匠。捨て子だったナガレを拾って育てた。厳しくも優しい人物で、流は彼のことをとても慕っている。
②設定
鬼
人を食べて糧にする怪物。不老不死に近く、身体能力が異常に高い。中には妖術のような異能を使う個体もいる。日光に当たると絶命する他、藤の花の香りを嫌う。
鬼殺隊
鬼を倒すために古くから存在する組織。ただし政府非公認。
日輪刀
鬼を斬れる特別な刀。
藤襲山
鬼殺隊の最終選別の場所。鬼が嫌う藤の花が山ほど咲いている。鬼が何体か生け捕りにされており、ここで7日間生き残れば鬼殺隊に入れる。
③感想など
三話構成というだけあって、話ごとに情報の使い分けもできており、「過狩り狩り」よりも読みやすいです。また、主人公の流も、「過狩り狩り」のナガレよりも人間味が増していて、感情移入がしやすくなっています。寡黙な性格はあまり変わりません。他の人物については、流と伴田左近次の師弟ドラマがとても熱く泣けるものとなっております。ただし、三話目は続きが気になるところで終わってしまっています……
「鬼滅の刃」に通ずる点は、まず流の師匠である伴田左近次。こちらは「鬼滅」で炭治郎の師匠となった鱗滝左近次の前身と言えます。
(鱗滝左近次。伴田の方は天狗の面をつけてません。)
「鬼殺の流」のお話は、流を育ててくれた左近次の期待に必死に応えるべく鬼と戦い奮闘する流の姿を描くと言った師弟ドラマ要素がより強いものであると同時に、「ワールドトリガー(※2)」のようなバトルものにスポ根ものの文法を落とし込んだ作品に近い雰囲気も感じました。しかし、流は炭治郎と違って鬼とは特に因縁はなかったため、異種族退治を請け負う組織にわざわざ入る動機などでは、「鬼滅の刃」の炭治郎の方が説得力があるように思えます。
また、人食い鬼、鬼殺隊、日輪刀、藤襲山の最終選別など、今の「鬼滅の刃」に受け継がれている設定も多く見られ、「鬼滅の刃」に近づいてきていることがわかります。ちなみに、「過狩り狩り」と同様に、「鬼滅」にも登場する伝令の烏も出てきます。ま隊、吾峠先生の世界観はここで完成度を一気に上げたとも言えると思います。しかし、まだ『呼吸』とその技などは出てきません。そのため、「鬼滅」よりも戦闘描写は渋めです。
3.炭治郎と流(ナガレ)
ここまで、「過狩り狩り」と「鬼殺の流」の紹介をしてきましたが、「鬼滅の刃」主人公・炭治郎はナガレとはとても対照的な人物です。ナガレは寡黙な性格ですが、炭治郎は明るく快活な人物です。その一方で、ナガレは意外にも鬼とは特に因縁があったわけではなく、炭治郎の方は鬼に家族を奪われ、生き残った妹も鬼に変えられてしまった悲しい過去を持ちます。だからこそ炭治郎は、人の命を平気で踏みつけにする鬼を許さない、それでもなお、鬼に復讐がしたいとは思わず、それどころか敵である鬼にも慈しむ態度を持つ優しさを備えています。おそらく、一番の目的は妹・禰豆子を鬼から人間に戻すことであることと、妹が鬼になっていることもあり、鬼を元々は人間だったものと意識する傾向が他の鬼殺隊のメンバーに比べて強いのでしょう。
プロトタイプ二作の主人公・ナガレの特徴はというと、クールな雰囲気や寡黙な性格という点からして、「鬼滅の刃」の水柱である冨岡義勇に受け継がれいるように思います。
(冨岡義勇。ちなみにナガレと違って五体満足です)
もう一人くらい、ナガレの特徴を受け継いだと思われるキャラがいますが、作品の重大なネタバレになってしまうためここでは伏せておきます……
義勇もまた、鬼に大切な人を奪われた過去(※3)を持つことや、初期の案のこともあり、世が世なら主人公を務めていてもおかしくない人物であるように思います(ジャンプでも彼が主役の外伝が一度掲載されました)。しかし吾峠先生と担当編集の方の間では、『ナガレのような人物が主役だと話が暗くなってしまうから』という話があったそうです。そこで、明るい性格の炭治郎が主人公として生み出されたという経緯があるそうです。確かに、「鬼滅の刃」の、ダークファンタジー 特有のシリアスな雰囲気と少年漫画特有の明るさや読みやすさの両立ができている理由は、炭治郎が主人公だからという点が大きいように思います。後者の理由については、炭治郎だけでなく、善逸や伊之助も関係してそうな気はします。
4.終わりに
令和コソコソ噂話、いかがでしたか?「鬼滅の刃」ができるまでに、こんな過程があったのかという気持ちを、このブログを読んでくださった方々と共有できたら嬉しく思います。そして、これら二作を手に取り、今の「鬼滅の刃」と読み比べてみると、また新しい発見があって面白いと思います。
余談になりますが、「過狩り狩り」が収録されている吾峠先生の短編集ですが、「過狩り狩り」以外の読み切りにも、「鬼滅の刃」と似た特徴があります。「鬼殺の流」のネームが掲載されている鬼殺隊見聞録は、キャラクター図鑑や、作者自らによる学園パロ「キメツ学園」のショートストーリーが収録されており、鬼滅ファンなら読んで損はない内容となっております。
最初の方にも書きましたが、劇場版も楽しみですね。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!またお会いしましょう!!
※1 漫画の骨組み。アニメでいう絵コンテみたいなもの。
※2 葦原大介氏の漫画。週刊少年ジャンプで連載し、現在ジャンプSQに移籍連載中。近世界民という異世界からの侵略者と、それから人々を守る組織ボーダーとの戦いを描く。侵略者との戦いだけでなく、組織内での練習試合で成果を上げると出世できるといった要素も含まれる。
※3 冨岡義勇は姉と親友を鬼に殺害された過去を持つ。